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9
 腰に強い衝撃が走り、竹岡鳴(男子10番)はわけもわからないまま、体育館に転がり込んだ。それと同時に背後で扉の閉まる音がして、ああ、俺は閉じ込められたのか、という考えが不思議と静かに脳裏をよぎった。
 ――いや、まさか、そんなはずはない。さっき、彼女――西村美依は、笑ったんだ。すっかり自分に気を許したふうに、にっこりと。そんな彼女がそんな悪事を働くはずがない。
 鳴はいそいで身を起こした。腰を痛めたせいか下半身が痺れ、立ち上がると足の裏がぴりぴりした。咳が止まらなくなり、あやうく呼吸困難に陥りかける。それでも西村美依のもとに戻るために、必死の思いで扉に辿り着いた。
 開かなかった。
「えっ、ちょっ、西村さんっ?」
 鳴は混乱した。ドアノブを回しながら押したり引いたりしてみたが、やはり扉は開かなかった。
 ほんの少しだけ動く扉の隙間から、向こう側のドアノブに黄色いものが巻き付いているのが見える。それはまぎれもなく、先ほど鳴が美依の足に巻いた包帯代わりの紐だった。鳴は拳を作って、がむしゃらに金属製の扉を叩いた。
「西村さん! どういうこと? 開けて!」
 いくら呼びかけても、そこにいるはずの西村美依は応答しなかった。
 彼女の声が頭の中で何度も何度もこだまする。ごくかすかな、まるで囁くような一言。聞き間違いかもしれないと思っていたのだが、彼女は確かにこう言ったのだった。
 “バイバーイ”。
 それを認識した以上、自分に言い聞かせることは無理だった。その行動は悪意に満ちていた。彼女は自分を欺いたのだ。ただただ、胸を悲しみが支配した。
「なんでだよ! 西村さん!」
「こいつ女に逃げられてるよ」
 不意に背後から声がしたので、鳴は慌てて振り返った。いつの間にやら、わずか1メートルという至近距離に小田春生(男子3番)が立っていた。春生は不気味なほどの無表情で、鳴を見下ろしている。
「え、あ、小田……くん」
 不良少年の登場に、普段は人見知りをしない鳴も狼狽してしまった。春生とはほとんど関わりあったことがない。具体的にどんな非行に走ったのかは知らないが、彼にまつわる悪い噂は鳴の耳にも入っていたため、春生との接触を巧みに逃れていたのだ。――自分は表、彼は裏、住む世界が違いすぎる。
「おい、小田ァ! まだ終わってねえんだよ!」
 違う声が春生の背後から聞こえた。春生の大きな身体が遮ってよく見えなかったが、体育館のちょうど真ん中にバスケットボール部部長の久保寿英(男子6番)がいるらしかった。鳴は身を傾けてその姿を確認した。
「聞いてんのか!」
 次に鳴の目がとらえたのは、物凄いスピードでこちらに向かってくる茶褐色の何かだった。一拍おいて、寿英がバスケットボールを投げつけたのだと認識する。その弾道は一直線で、勢いを衰えさせる気配がない。――やばい、ぶつかる!
 ぱし、と小気味よい音がした。
 鳴がそっと目を開けると、春生がこちらを向いたまま、頭の後ろにまわした両手でボールを受け止めていた。
「敵に球渡してどうすんだ」
 抑揚のない、なんとも奇妙な口調で春生が言う。同時にきびすを返し、こちらと反対側にあるステージの方へドリブルしながら向かっていった。
 「卑怯だ」と言いながらとっさにガードした寿英をかわし、春生は素早く3ポイントラインの上で飛んだ。手から離れたボールは美しい放物線を描き、赤いゴールリングに当たって――それから大きく跳ね返り、あさっての方向へと跳んでいった。
「何回シュート外せば気が済むんだ」
 寿英がなんのかのと野次を飛ばしながら、リバウンドボールを見事に受け止め、こちら、正面玄関の方へ速攻を開始した。ぼんやりとゴールを見つめていた春生も、やがてそれを追った。
 ――いったい何回失敗したんだろう。そう考えて、それどころではないことに気付いた。西村美依だ。彼女の弁解を聞かなければならない。これはなにかの間違いであったと、魔が差してしまったのだと、謝罪の言葉をひとつでも聞かせてくれれば、それで自分は笑って許せるのだ。
 正面玄関は諦めて、鳴は左の壁にある扉を目指した。
「あー、無駄無駄」
 そこで春生のそんな声が聞こえたので、鳴は振り向きざまに尋ねた。
「無駄?」
 春生は試合を続けながら、立ち止まっているときと同じような調子で喋り始めた。
「うん。俺はさ、どうしてもバスケしたかったの。だからここに来たのね。で、入る前にさ、体育館の中をちょこっと覗いてみたのよ。したらな、そこにロン毛男がいてな」
 春生が何の話をしているのかわからなかったが、鳴はとりあえず耳を傾けることにした。
 このクラスで髪の長い男子と言えば、青木洸輔(男子1番)をおいて他にいない。洸輔といえば、よく授業をさぼっては保健室で寝ているような不真面目な人物だった。鳴は洸輔をあまりよく思っていなかったが、周りにいつも人だかりができていることから、人徳は割にあるらしい。それが不思議でたまらなかった。
 春生は話を続けた。
「俺はいったん校舎の方に戻って……つっても、兵士とかがいるのとは別の校舎な、すぐ裏にあったんだけど……それに入って、図工室ってのを見つけたから、そこでちょっと物色してみたわけよ。そんでな」
 走りながら、上半身をこちらに向け、両手で直径10cmくらいの円を作った。
「こーんな、リールっていうのか、ワイヤーが巻きついてるやつを丸ごともらってきて……」
 鳴ははっと息をのんだ。その先が読めてしまったのだ。推理小説を読むときなど、序盤で結末を予想してしまう癖が鳴にはあるのだが、今回もついそれを実行してしまった。正解率があまりに高いため、最近では意識して何も考えないようにしていたというのに。
 事態は最悪な方向へと突進していた。鳴が思い描いたシナリオはこうだ。――是が非でもバスケットボールで対決がしたかった春生は、青木洸輔を逃がさぬよう、おそらくは西村美依と同じような手口で――。
「出入口、封鎖しちゃったの……?」
 鳴が苦い顔をして尋ねると、春生は悪びれもせずうなずいた。マークがはずれたすきにレイアップシュートを放った寿英が、着地と同時に素っ頓狂な声をあげた。
「はあっ?」
 ボールが綺麗にゴールネットをくぐりぬけたので、春生はあーあ、と呟いた。
「あーあじゃねえよ。あーあじゃねえよ! なにやってんのお前?」
「ひとりじゃつまんねーからさ、逃げられないようにそうしたんだけど、その間に逃げられちゃった」
 その言葉を聞いてか聞かずか、寿英は棒立ちしている鳴を押しのけ、観音開きの扉を開けようと試みた。それもむなしく、扉はまるで溶接されたようにびくともしなかった。すぐに反対側の壁に走ったが、そちらの扉も断固として開かなかった。
「な、だから言ったじゃん。こうやって8の字に、取っ手をワイヤーでぐるぐる巻きにしたの。きつくきつく、きっちりきっちりって、俺、すげー頑張ってさ。で、唯一、俺が入るために開けてた入り口も女に閉められただろ。これってさ、まさしく監禁状態だよねー」
 ――絶望的だった。
 月家具と名乗るプログラム担当官が言っていた。「全員が学校を出て20分後に、ここが禁止エリアに指定されます」、と。その時間が訪れるのを自分たちはただ大人しく待つことしかできないと、そういうことだった。
 寿英が春生に飛び掛り、あわや大乱闘かといった映像が鳴の頭をかすめた。しかし寿英は「ああもう、どうすんだよ」と言っただけで、その場にしゃがみ込んだ。沈黙が落ちた。
 何を考えているのか、もしかすると何も考えていないのかもしれないが、春生はただ突っ立ったまま正面玄関の方を見つめていた。寿英はといえば、あぐらをかいたままうつむいて鼻をすするばかりだった。自宅学習はラジオを聴きながらというほどに静寂が苦手な鳴は、苦し紛れに思いついたことを言った。
「そっ、そうだ! 俺、ペンチ持ってるんだけど! それでワイヤー切れば……」
 寿英の表情が一瞬明るくなったが、春生の「無駄だって」という言葉を受けて、思い出したように首を垂れた。
「きっちり巻いたっつっただろ。1ミリも開かねーよ。な」
 春生は寿英に同意を求めた。それは、扉を確かめた寿英、そしてそれを見ていた鳴も承知のことだった。扉は固く閉ざされている。ペンチはおろか、小指一本さえ入る余地がない。
 肩を小刻みに震わせている寿英を、春生は覗き込んだ。
「泣いてんのか」
「黙れバーカ!」
 寿英はぱっと顔を上げた。目が潤んではいるが泣いてはいない。その代わり、歪んだ笑みが満面に浮かんでいた。
「とにかくな、時間くるまでにきっちり決着つけるぞ!」そして飛び上がるように立った。「竹岡は審判、それと証人な! ルールは20ゴール先取! 俺はさっきので18本決めた。でも小田、お前何本だったっけ? たったの7本だぜ、7本。命中率低すぎんだよな。結果見えてるよな。なっ?」
 寿英はやけを起こしたように笑った。鳴が対応に困っていると、正面玄関を見ていた春生が、ゆっくりとこちらに視線を移した。
「そこのお坊ちゃん。ここが禁止エリアになるまで、あと何分」
 お坊ちゃんとは誰のことだろうととぼけようとしたが、自分の他にいないことはわかっていたので、鳴は素直に腕時計を見た。9時55分を少し過ぎている。
 発狂するのではないかと危惧するくらいに静かな教室で、鳴は気を紛らわすためにいろいろと計算をしていたのだった。自分の出発時間はもちろん、全員が出発するのに要する時間や、仲の良い平野要(男子13番)とはどれくらいの差が離れているか、などなど。その結果、最初の禁止エリアが発動するのは10時21分と算出されたはずだ。
「あと25分くらいだよ」
「なーんだ、結構あんじゃん。余裕だな」
 春生のその言葉に、鳴は希望の光を見出していた。――そうだ、たっぷりとは言いがたいが、まだ時間はある。三人寄れば文殊の知恵というじゃないか。まだ道は完全に閉ざされたわけではない。
「とにかく……」
 考えよう、と鳴が続けようとすると、春生は寿英のそばに転がっていたボールをひょいと拾った。
「ボール、俺の番な」
「ちょっと、そんなことしてる暇は……」
 鳴の言葉に構う様子もなく、春生はまっすぐ挙手をした。
「じゃあ俺、これから本領を発揮することをここに宣言しまーす」
 それは、体育祭で見る選手宣誓のようだった。
 これまでも鳴の目には充分速く映っていたが、春生は目にも止まらないような俊敏な動作で攻撃を開始した。寿英はそれをただぼんやりと見守っていたが、やがてはっと我に返った様子で追いかけた。しかし春生はすでに3ポイントラインに到達し、投球していた。ボールはバックボードにもリングにも触れることなく、ネットをくぐり抜けた。鳴が先ほど西村美依と一緒に聞いたのと同じ「イエー」という歓声を、春生が上げた。
 あまりの素早さに驚き、魂を吸い取られたようにぼうっとしていた鳴の頬に、ひゅう、と風が吹きつけた。鳴は呆然としたまま顔を上げた。そして、目を見開いた。
 ――窓。
 2階の高さに窓があった。たくさん並んでいるうちのひとつが半開きになっている。そこから風が入ってきたらしい。そのすぐ下に、人ひとりが通れるくらいの狭い足場があった。それは、左右背後の壁に取り付けられ、正面のステージに突き当たっている。はしごか何かをつかって、舞台袖から登れるようになっているのだろう。
 鳴は自分の表情が明るくなるのを感じていた。そのことに気付かなかったことが、今では不思議でならない。――窓だ、窓から出ればいいじゃないか。そこそこの高さはあるが、運動神経の優れた2人ならなんとか飛び降りられるだろう。そして外から封鎖を解いてもらい、自分は扉から出ればいい。簡単なことだった。
「ね、ねえ!」
 鳴はこのことを知らせようと、慌てて2人に呼びかけた。そんな間にも試合は続いており、特に寿英の方は必死で、鳴の話に耳を傾ける余裕はないようだった。もう一度言ってみたが、2人は振り向かなかった。
 やがて、ボールを両手に持った春生がゴールの手前で踏み切り、飛び上がった。それは、ゴールリングを眼下に見下ろせるほど、高い高いジャンプだった。春生が両手を振りかぶる。鳴、そしておそらく寿英も、まさか、と思った。そのまさかだった。
「スラムダーンク!」
 春生はそう言いながら、ボールをゴールに叩き入れた。がちゃん、という激しい音が、奇妙に遅れて鳴の耳に届く。そのまま床に投げつけられたボールは、何度も跳ね上がりながら次第に勢いを失い、ただ呆然と息を切らしている寿英の足元に、ころころと転がっていった。
 ゴールリングにぶら下がっていた春生は、軽やかに地面へ降り立った。
「はい、終ー了ー。俺の勝ちー」
 鳴は耳を疑った。たしか春生が勝つにはあと10回以上のゴールが必要だったはずだ。それをこの短時間で巻き返したというのだろうか? 「これから本領を発揮します」という宣言通り、小田春生はそれまで手を抜いていたらしい。バスケットボール部部長の面目は丸つぶれだろう。
「んじゃー、罰ゲーム決行ー」
 そう言って、春生はステージに向かって右の壁へ歩き始めた。そこに追いやられていたデイパックを開け、中身を確認した。
「……罰ゲーム?」
 寿英がようやく暗い顔を上げたとき、春生は寿英の前に立ち、肩にかけたデイパックから何かを取り出した。鈍い光を放ったそれは、刃渡りが30センチはあろうかという刺身用の包丁――柳刃包丁だった。寿英が、あ、と言った。
「よいしょ」
 春生が寿英の後頭部の髪をむずとつかみ、それと同時に包丁を振りかぶる。鈍い光が尾をひいて、そのあとにどかっと音がしたが、春生の肩越しに見える寿英の顔は呆けたようにきょとんとしていた。やがて視線を下に移し、「マジかよ」とつぶやいた。
 寿英はゆっくりとその場に崩れ落ちた。背を丸め、横向きに倒れた寿英の胸には、柳刃包丁が突き刺さっていた。
「なっ、なにしてんのっ?」
 鳴はうろたえながら、安否を確認するために寿英のもとへ駆け寄った。
「久保、大丈夫? 久保!」
 お約束の質問を投げかけてはみたものの、諦めに近い感情が胸を満たしていた。細長いその包丁は身体を貫通し、背中から刃先を覗かせている。心臓をざっくりとやられてしまったのだ、大丈夫であるはずがない。
 寿英の目はうつろに、どこか遠くの方を見つめていた。そしてすでに息をしていなかった。
「お……小田、自分のしたことがどういうことかわかってんの?」
 鳴は混乱した頭で物事を論理的に考えようとした。しかし到底理解できなかった。いとも簡単に人の命を奪ってしまうという精神など、理解したくもなかった。
 そうして質問をされた春生は、悪びれもせず言うのだった。
「だって、そういうゲームじゃん」
 それを聞いた鳴は、ようやく思考力を取り戻した。その途端に恐ろしさが押し寄せてくる。
 ――なにをぼんやりとしているのだろう。小田春生は人を殺した。何の躊躇もなく。それは、春生がこのゲームに“乗った”なによりの証拠じゃないか。この男はやる気なのだ。そして、自分のことも――殺すつもりなのだ!
「それよりさ、お前もなんかで対決しようよ。負けた方が罰ゲーム。なんでもいいからさー。じゃんけんでもいいや」
 春生はそう言いながら、ゆったりとした動作で、寿英に刺さった柳刃包丁を抜きにかかった。
 そのときにはもう、鳴はステージに駆け上がっていた。左の方、下手の舞台袖に入る。もう窓から逃げるしかない。自分が2階から無事飛び降りられるかどうかわからなかったが、こんなところで尻込みしている場合ではなかった。とにかく逃げなければならなかった。背後からこちらへ向かう足音が聞こえた。
 予想通り、舞台袖にははしごが取り付けられており、鳴はそれを必死に登った。手に汗をかいているために何度も滑りそうになったが、なんとか足場に這い上がることができた。
 窓が見えた。黒く厚いカーテンを払いのけ、一番手前にある窓を開けた。そこから顔を出して地面を見た。そして、息をのんだ。
 ――これは、無理かもしれない。
 地面が思いのほか遠い。3年3組の教室は3階に位置しているため、これくらいの高さなら見慣れているはずなのだが、ここから飛び降りるとなるとまるで話が違う。それでも植え込みかなにかがあればなんとかなるかもしれないが、不運なことに地面はコンクリート舗装が施されていた。これでは負傷を免れないだろう。それどころか、もし打ち所が悪ければ――。
 鳴は身震いをし、なにか足がかりになるものはないかと、身を乗り出して辺りを見回した。すぐに見つかった。右の方、掴みやすそうなパイプが縦に伸びている。
「なー、タケオカくーん」
 呼びかけられたことに驚き、鳴は窓枠に手を突っ張ったままの状態で振り向いた。そのせいでバランスが崩れたこと、そして汗をかいていたことが重なり、身を支えていた左手が滑った。鳴の足が弧を描き、身体は暗闇に放り出された。
「あーあ、落ちた」
 そんな春生の声も、鳴の耳には届かなかった。
 静寂が体中を覆い尽くす。体感する時間がとても長く感じられる。窓から洩れる四角い光だけが鳴の目に映り、徐々に遠ざかっていく。
 光の中に父と母の姿が浮かび上がり、すぐ消えた。次に、親友である平野要の、不機嫌そうなしかめっ面。それもすぐ消えた。そして――西村美依の、最後に見た、可愛らしくて天使のような微笑み。ああこれが、走馬燈のようにってやつか。やばい。これは非常に、やばい。
 激しい音を伴い、鳴は背中からコンクリートに落ちた。そのときにはもう気絶していた。
「おーい、大丈夫かー」
 そんな春生の呼びかけに、返事はなかった。
 実のところ面倒だったので、春生は鳴を追いかけなかった。視界から人間が消えたあと、大きく伸びをして首を鳴らす。あれだけ動いたにもかかわらず、慢性的な肩こり症は解消されなかったらしい。
 ぼんやりと、「温泉が湧いているそうです」という月家具の言葉が脳裏に蘇る。――あー、温泉つかりてー。で、マッサージ師でもいれば最高なのに。
 寿英のものと自分のもの、ふたつのデイパックを肩に掛け、春生は正面玄関へ進んだ。左手に握った血まみれの包丁と見比べた結果、自分の支給武器――子供用のはさみにその役目を負わせることにした。ほんの少し開く扉の隙間から、出口を封鎖している黄色い紐を切らせるのだ。
 そして、春生は悠々と体育館を後にした。背後で倒れている鳴はそのままにしておき、ごくゆったりと歩き出した。

男子6番 久保寿英 死亡
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