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笑顔を見せて

◆◆◆◆◆◆

「最近、どうしてる?」
会う時は、いつもその言葉しか聞けない。
一生懸命な私の気持ちは、空回りばかり。

「せがまれるのが嫌だ」
「甘えられるのも嫌だ」
初めて見た、とても冷たい目で、彼はそう言った。
はっきり、「他に好きな子が出来た」って言ってくれれば、楽だったのに。
こんなにそばにいたのに、心が見えなくなってしまった。
それでも、好きだった。
心のバランスを、貴方を思う私の心が崩している。

「さみしかった」それが泣いた理由。
だけど、貴方は何も言ってくれなかった。
それが、貴方からの答え。
本気だったんだよ。
とても、とても、痛いくらいに好きだった。
貴方との楽しかった時間が、心の中で凍りつく音が聞こえた。

私が欲しかったのは、苦しい抱擁じゃなくて、貴方の一つの笑顔だった。
大切な、私の初恋が、今終わった。
そして、金井泉は一人泣いた。

◆◆◆◆◆◆

上手く言葉に出来ないことが、毎日ありすぎる。
いつも冗談を言って、誰かを笑わせているのは、嫌われるのが怖いから。

そんな弱い自分が嫌だった。
男と生まれたからには、強くならなきゃ。
いつも誰かに頼ってばかりいる自分。
例えば、今日だってそうだった。
歴史の時間に、クラス内でいくつかのグループに分かれて、研究発表を行った。
俺達の班は、縄文時代から弥生時代のことを調べた。
シンジやヒロキが色々と趣向を凝らして、結構面白い物になった。
実際に当時の原始人が使用していた、土器や武器を作ってみたのだ。
結構形もよく出来て、先生にも誉めてもらえた。
その作品の幾つかを、ものの見事に壊してしまった。
ロッカーに持っていこうとして、机の脚に躓いたのだ。
「そんなに一杯無理して運ぶからだ」と、黒長達に笑われた。
シンジやヒロキは、気にするなって言ってくれたけど、やっぱり駄目だ。
今年で、俺ももう14歳。
そろそろ主体的な意見や自信を持たないとまずいだろう。
自分に自信を持つためには、自分で出来ることを見つけなきゃ。
今まで、自分の力だけでやり遂げたことって、何だ?

◆◆◆◆◆◆

そんな考え事をしながら、豊は公園のベンチに腰掛けていた。
反対側のベンチに座っている金井泉に気がついたのは、
視線をふと上げた時だった。
「あれ?」
豊は首を傾げた。
金井の家(町長の屋敷だ)は、豊のいる公園とは反対だ。
何の用もなければ、足を向けることはない方向である。
「おおい、金井!」
ぶんぶんと両手を振って、豊は声をかけた。
声は十分に届いてるはずなのに、泉は顔を上げなかった。
「何だ?あいつ」
具合でも悪いのかな?
もしかしたら、女の子特有の・・・。
余計なことまで考えて、豊は一人で赤面していた。
とにかく、顔見知りの様子が変なのだ。
しかも相手は女の子。
それを放って置いて帰れるほど、豊は冷たい人間ではなかった。
自分の体では少し持て余し気味のカバンを抱えると、泉に近づいた。
泉は、ぐったりと体を折り曲げ、膝の上で手を組んでいる。
貧血でも起こしたのだろうか?
近づいてみて、豊はますます心配になった。
「どうした、金井。具合でも悪いのか?」
小さく、泉の肩が震えた。
頭を項垂れたまま、ゆるゆると首を振った。
そして、小さな、とても小さな声で「瀬戸・・・君?」と聞いた。
「そうだよ」
しゃがみ込んで、豊は言った。
「・・・ごめんなさい。顔・・・見ないで」
震える声で、泉が言った。
いくら鈍い豊でも、泉が泣いているのが分かった。
「・・・ごめん」
ばつが悪そうにそう言うと、豊は立ち上がった。
それでも、さっさか帰ることは出来なかった。
かといって、距離を置くのもわざとらしい。
色々迷った挙句、豊は泉と同じベンチに腰掛けた。
中学生なら三人は腰掛けられる幅なので、間に一人分空間を空けている。

ひとしきり時間が経った。
その間、豊はとても気まずかった。
もう、泉は顔を上げていたけれど、まだ涙に濡れた目をハンカチで抑えている。
気分は、大分落ち着いているようだ。だけど、声もかけられない。
女の子が泣いているのは、苦手だった。
こういう時、何て言えばいいんだろう?
シンジは女の子との付き合い方が上手いから、優しくフォローするんだろうか?
もともと、長い間黙っていられない性分である。
豊は意を決して、泉に話し掛けた。
「金井。知ってるか?」
「え?」
「今日、歴史の研究発表があっただろう?あの時俺達が持ってきた土器や武器。
あれさ、ほとんどシンジが作ったんだぜ」
「・・・そうなの?」
泉は、戸惑ったように返事を返した。
豊は構わず続けた。
「そうそう。それで、俺もヒロキも手伝いにシンジの家に行ったんだけどさ、
ほとんどお役に立てなくてさ。ヒロキなんかやることがないって萎縮しちゃって、
昼飯作らせてくれって、台所に詰めてたんだぜ」
「・・・ええ?杉村君が料理なんてするの?」
泉が本当に驚いたような顔をした。
強面の杉村弘樹が料理。
これは、B組の女子には驚きだろう。
豊自身、その時はとても驚いた。しかも、昼食は美味かった。
「ヒロキが料理出来るなんて、以外だろう?」
何故か自慢気に胸を張って、威張ったようにいう豊が、急に怯えたように背を丸めた。
「でもさ、「恥ずかしいから、このことは誰にも言うな」ってヒロキに言われてるんだよ。
だから、金井も誰にも言わないでくれよ」
これは事実で、弘樹は真剣に豊と信史に詰め寄って言っていた。
豊の変貌振りに、金井は小さく吹き出した。
「さっきまで威張ってたのに。おかしいわ、瀬戸君」
泣き顔に、少しだけ光が差した。
(いけるぞ)豊は思った。
畳み掛けるように、豊は話をした。
秋也が、格好つけてギターを弾いていて、雑巾に足を滑らせたこと。
信史が偉そうに、「町でナンパの見本を見せてやる」って言って、声をかけた女の子に振られたこと。
本人達に聞かれたら、間違いなく一発殴られることを話して、泉の笑いを誘った。
みんな、頼むから許してくれよ。

この子の笑顔が見たい。
豊はいつの間にかそう思っていた。

豊の話を聞いて、泉は笑った。
声を上げて、元気に笑った。
「あははは、おかしいすぎるわ。こんなに笑ったの久しぶり」
ふうっと、息を一つ吐くと、空を見上げて泉は言った。
「実はね、瀬戸君。あたし、今日失恋しちゃったの」
「・・・そ、そうなんだ」
内心ドキッとした。
泉が、二才年上の高校生と付き合っていると聞いたことがあったからだ。
「それで、何だか家にも帰れなくて、ここで泣いてたの。それが理由」
豊は下を向いた。
何か言うんだ、俺。
しっかりしろ、俺。
心の中で、自分自身を叱り付ける。
「悲しいことがあった時は、笑うんだ」
「え?」
泉が豊を見た。
「つまんない顔や、悲しい顔でいたら、元気がなくなる。終わったことはしょーがないじゃん。
朝起きて、ご飯食べて、気合入れれば、楽しくなるぜ。
傷ついた経験だって、大人になるキッカケの一つだと思えばいいじゃん」
我ながら、なんて気のきかない奴だ。
豊は、心の中で自分の頭に金タライを落とした。ガーンンン。
「・・・そうだね」
泉は小さく、しかしはっきりと言った。
「瀬戸君の言う通りだね。私、そんな簡単なことも出来てなかったの」
え?豊は顔を上げた。
「瀬戸君は凄いね。いつもみんなを元気にしてくれる。楽しい気分にさせてくれる。
それって、とても素敵な才能だと思うよ」
その目は、まだ涙に濡れて赤かったけれど、彼女の笑顔はとてもきれいだった。
「う・・・うん、ありがとう」
泉の笑顔に見とれ、豊は返事に一呼吸置いた。
「今日、私がここで泣いてたって、誰にも言わないでくれる?」
「そんなこと、言わないよ」
慌てて豊は言った。
「ありがとう。私も、さっきの話みんなには言わない。
杉村君達も、広められたら恥ずかしいと思うし」
確かにそうだった。
三人共、怒らせるととても怖い。今更ながら豊はぞっとした。
「じゃあね、瀬戸君。また明日」
カバンを持って、ゆっくり立ち上がると、泉はそう言って歩き出した。
十歩ほど離れた場所で一度立ち止まると、泉は振り返って言った。
「今日は、ありがとう」
「また明日・・・」
豊は、その儚げな背中を見送った。
彼女の長い髪、整った顔立ち、そして、晴れやかな笑顔。
そんな一つ一つが、豊の網膜と脳に焼きつき、それは決して消えなかった。

一人になった公園で、豊は不意に喜びと笑いがこみ上げてくるのを感じた。
やった、一人で出来たぞ。
人を笑わせることしか出来ない自分が、笑いで人を元気づけた。
これはすごいことだぞ、こんちくしょう。
見てくれよ、シンジ。俺は今決めたぞ。笑いを極めてやる。
みんなを楽しませる仕事。そんな仕事についてやる。
豊は両手を伸ばして、空の雲を掴もうとした。
ベンチの背もたれがギシ・・・と言った。

END

私がフライデーさんのHPでキリ番ゲットしたとき
「バトロワの豊と金井さんの恋物語」という少女漫画思考炸裂なリクエストをしたところ、
このようなめっちゃ素敵な小説をいただいてしまいました!
豊がかっこいい・・・これはすごいことですな。
しかも杉村くんが料理をしたという特典(?)付き。
切なくて優しくて強くて素晴らしすぎます。
どうもありがとうございました!